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『だまし物・でっち上げ』七十人訳聖書

ディビッド・W・ダニエルズ

『七十人訳聖書』とは何か?

 現代の多くの聖書の序文を見れば、おそらく、『七十人訳聖書』への短い言及が見つかるはずです。
 NKJ版聖書を含めて、現代の多くの聖書の翻訳者たちはみな、聖書を翻訳する際、他の数々の本文とともに、『七十人訳聖書』を使っています。
 彼らは、『七十人訳聖書』には、保持されてきたヘブル語本文には見出されない『読み方』が含まれていると主張し、それを重要視しているのです。
 ところで、『七十人訳聖書』とは何でしょうか? 伝承では次のように言われています。

 『七十人訳聖書』は、BC285年〜246年、エジプトのアレクサンドリアにて、プトレマイオス2世フィラデルフォスが王であった時期に翻訳されたと主張されています。
 この王の図書館員(司書)であったとされるデメトリオス・パレレオスがフィラデルフォス王を説得して、ヘブル語聖書のコピーを入手させ、その後、聖書(少なくとも創世記から申命記まで)がアレクサンドリア在住のユダヤ人たちのためにギリシャ語に翻訳されたとされています。
 こうして、学者たちは、イエス様と使徒たちは、保持されてきたヘブル語本文の代わりに、このギリシャ語聖書を使ったのだと主張しています。

唯一の拠り所…『アリステアスの手紙』

 キリストの時代より前にヘブル語聖書がギリシャ語に翻訳されたという主張は、ただ一つの文書にのみ依存しています。
 この主張を支持するそれ以外のどんな歴史的証拠も、このただ一つの手紙からの引用か、この手紙への言及のいずれかです。
 この『アリステアスの手紙』と呼ばれるものの中で、著者は自分を、『フィラデルフォス王の親友(腹心)』であるとしています。
 彼は、自分が大祭司エレアザルを説得して、エルサレムから72人の学者たちをエジプトのアレクサンドリアに送らせたと主張しています。
 そのアレクサンドリアでユダヤ人学者たちはヘブル語聖書をギリシャ語に翻訳し、『七十人訳聖書』と現在呼ばれているものを作ったとされています。
 ユダヤ人歴史家のヨセフス、ユダヤ人神秘主義者のフィロン(二人とも、紀元後1世紀の人)が、この物語について言及しています。
フィロン
フィロン(フィロ)】 (BC20年頃〜AD50年頃) エジプトのアレクサンドリアに在住したユダヤ人。グノーシス派哲学的神秘主義者。彼は、聖書は文字通りに理解してはいけないと信じた。彼は、聖書を『寓話(ぐうわ)的』に理解する方法を開始し、後にオリゲネスがそれにならった。
 フィロン『寓話的』・『比喩的』解釈により旧約聖書に関する数多くの書を著した。

 この72人はそれぞれ別の独房に閉じ込められ、『奇跡的に』彼らは一語一語同じことばを書いたとされ、そのことが、この『七十人訳聖書』全体の『霊感』を証明していると主張されています。

「彼らは、取り憑かれた者たちのように預言した。
 それぞれが別々のことを預言したのではなく、みな同じことばと語句を生じさせた。あたかも、目に見えない促す者が各人の耳元にいるかのように」
(ISBN p.2723  "The Septuagint: A Critical Analysis",p.6(F.N.ジョーンズ))

 こうして、『七十人訳聖書』イエス様と使徒たちの時代『実在』し、彼らはヘブル語本文の代わりに、『それから引用した』のだと主張されています。

 しかし、この物語は真実でしょうか?
 『七十人訳聖書』は、主なるイエス様と使徒たちの地上での働きの時期より前に本当に書かれたのでしょうか?
 彼らはその『七十人訳聖書』から引用したのでしょうか?
 それは本当に神によって霊感されていたのでしょうか?
 そして、この物語が『でっち上げ』であるなら、なぜ、この物語が作り出されたのでしょうか?
 人々に『七十人訳聖書』を使わせる(あるいは、信じさせる)べき理由が何か別にあるのでしょうか?

ギリシャ人の名前ヘブル人たち?

 この手紙の著者とされるアリステアスは、フィラデルフォス王の治世に、ギリシャ人の宮廷職員であったと主張しています。
 彼はデメトリオスによって遣わされたとされています。イスラエルの最高の学者たちに、ヘブル語聖書の写本をエジプトのアレクサンドリアに持って来るよう要求し、『七十人訳聖書』の翻訳プロジェクトを始めるためにです。
 彼は、『七十人訳聖書』の学者たちの名前まで挙げています。
 ところが、彼が挙げているそれらの名前の多くは、およそ75年も後の時代のマカベア時代の名前なのです。
 それらの名前の多くはギリシャ人の名前であり、ヘブル人学者たちの名前でないことは明らかです。

偽りの年代設定

 この手紙が主張とは異なる時期のものである証拠は他にも多くあり、こうして、これは捏造(ねつぞう)されたもの(でっち上げ)なのです。
 著者は自分がだれであるかについて偽っているのです。

 『図書館員』と考えられているデメトリオス・パレレオスBC345年〜BC283年頃)は、プトレマイオス1世ソーテール(統治期間:BC323年〜BC285年頃)の宮廷で仕えました。
 デメトリオスが、プトレマイオス2世フィラデルフォスの下で図書館員であったことは決してなかったのです。

偽りの海戦勝利

 この手紙は、翻訳者たちが到着した時、王がデメトリオスと彼らに対し、『(王が)アンティゴノスに対する海戦で勝利した記念日に彼らが来たのは、すばらしいことだ』と話したことを述べています。(『アリステアスの手紙』7・14)
 ところが、エジプト海軍が勝利したというそのような記録があるのは、デメトリオスの死後何年も後に起きたことだけです。
 ですから、この手紙は、『いかさま』(食わせ物)なのです!
 アリステアスの手紙は、『だまし物』であり、それが書かれたと主張する時代当てはまりません
 また、それ以外の古代文書はこの物語に補足しているだけであるゆえ、キリスト以前(紀元前)の時代に『七十人訳聖書』が存在したというこの物語自体が、『いかさま』なのです
 本文批評学の学者たちでさえ、この手紙が『だまし物』であることを認めています。それなのに、彼らはキリスト以前に『七十人訳聖書』が存在したことの根拠としてアリステアスの手紙を引用し続けているのです。

イエス様のことばとの食い違い

 多くの学者は、キリストと使徒たちは『七十人訳聖書』を使ったとし主張しており、神殿や会堂で見つかるヘブル語本文よりも『七十人訳聖書』を好んでいます。
 しかし、ギリシャ語の『七十人訳聖書』イエス様のお使いになった聖書であったのなら、イエス様は次のことを言われなかったはずです。
なぜなら、まことにあなたがたに言いますが、天と地が過ぎ去るまでは、律法から文字の一点あるいは一画も、すべてが起こるまでは、過ぎ去ることは決してないからです」(マタイ5・18)

 なぜ、彼はそう言われなかったはずなのでしょうか?
 なぜなら、この『一点』とはヘブル語の一つの文字であり、この『一画』とは、ヘブル語の文字と文字の間を区別する小さなマークのことだからです。
 もしイエス様がギリシャ語の『七十人訳聖書』をお使いになったなら、彼の聖書には『一点』や『一画』が含まれていなかったはずです。
 イエス様は明らかに、ヘブル語聖書をお使いになったのです!

イエス様の区分との食い違い

 さらに、イエス様は聖書本文を二通りの仕方でのみ言及されました。
  1. 律法と預言者たち
  2. モーセの律法と預言者たちの書と詩篇
  3.  「さて、彼は彼らにこう言われた。
     『私がまだあなたがたといっしょにいた間に、あなたがたに向かって話したことばは、こうです。
     すなわち、私についてモーセの律法と預言者たちの書と詩篇の中に書かれているすべてのことが成就されなければならないということです』
    」(ルカ24・44)
 ヘブル人は彼らの聖書を、『律法、預言者たち、諸書』の三つに区分しているのです。
 イエス様はそのことにはっきり言及されたのです。
 『七十人訳聖書』には、そのような区分は全くありません。
 事実、『七十人訳聖書』は数々の外典を含んでおり、旧約聖書の中に散在しているのです。

『七十人訳聖書』必要とするローマ・カトリック

 では、私たちが今なおこの物語を耳にするのは、どうしてなのでしょうか?
 なぜ人々はそれを再考するのでしょうか? 
 「ヘブル語の旧約聖書からは失われた」とされる「もともとの読み方」を見つけようとして彼らが今なお『七十人訳聖書』を使おうとする理由は、他に何かあるのでしょうか?

 ローマ・カトリックのドゥアイ・リームズ聖書には、こう記されています。
 「『七十人訳聖書』と呼ばれるものは、原語ヘブル語からののギリシャ語翻訳版であり、この中にあるすべての読み方は、現在のドゥアイ聖書に見出される。
 これは、救い主および彼の使徒たちに用いられた聖書であり、教会の幼少期から教会によって用いられ、そしてラテン語に翻訳された。(ラテン語ウルガタ聖書ととして知られるもの)
 そして、書かれた神のことばの真の聖書として認識されてきたものである」(1914年版の序文)

 このように、ローマ・カトリックは、『七十人訳聖書』本物であり霊感されたものであることを必死に望んでいるのです!
 おわかりのように、この『七十人訳聖書』と呼ばれるものから、彼らは外典(霊感されてはなく、私たちの聖書の中には入れられていない数々の書)を手に入れたのです。
 もし『七十人訳聖書』が受け入れられるのなら、外典も、それとともに受け入れられることになるのです!

『七十人訳聖書』=『アレクサンドリア写本』

 『七十人訳聖書』の本文と考えられるているものは、今日、特定の写本の中にのみ見出されます。
 その、おもなものは、シナイ写本バチカン写本、そしてアレクサンドリア写本です。
 ところが、このアレクサンドリア写本とは、まさに私たちが『七十人訳聖書』と呼んでいる本文なのです!

 ランセロット・ブレントン卿は著書『外典の付いた七十人訳聖書:ギリシャ語と英語』(1851年)の序文の中で、幾人かの本文批評学者たち『七十人訳聖書』を、その真の名称である『アレクサンドリア写本』と呼ぶことを試みていたけれども、その名称には決まらなかった次第を説明しています。
 このように、彼はこれらが全く同一のものであることを認めているのです。

 こうして今日、TR聖書本文を支持する5000以上の写本に対抗して、この45アレクサンドリア写本を必死になって信じている本文批評学者たちがいるのです。
 彼らは現代の多くの新約聖書を翻訳するために、そういうアレクサンドリア写本を使っていますが、これらアレクサンドリア写本には、『七十人訳聖書』の旧約聖書(外典付)も含まれています。
 彼らは、わなに陥っているのです。

『七十人訳聖書』必要とするエキュメニカル本文批評学者たち

 ローマ・カトリックは、現在、次のように主張しています。
 「新約聖書のためにアレクサンドリア本文(現代の学者たちがあらゆる新たな翻訳聖書のための土台として用いているもの)を受け入れるなら、アレクサンドリア本文(すなわち、『七十人訳聖書』)のそれ以外の本文をも受け入れなければならない。それには、外典が含まれている」と。

 私たちが現在目にしているのは、エキュメニカルS4-9,T-2)な聖書の進展であり、それは外典を含むものです。何種類かの聖書は、すでにそうなっています。
 多くのプロテスタントたちにとって、すべての道は、まさにローマに通じているのです。

クリスチャン『七十人訳聖書』全く必要としない!

 私たちクリスチャンはアレクサンドリア写本を必要とするでしょうか?
 全く必要としません!
 旧約聖書のためには、私たちには、ヘブル語マソラ本文の内に、保持されてきた神のことばがあります。
 新約聖書のためには、私たちには、5000を越えるギリシャ語写本も、さらには初期に翻訳されて海外で広まった多くの聖書も、キリストおよび彼の使徒たちの実際の言葉を証言するものとしてあります。

 したがって、『七十人訳聖書』『だまし物』なのです。
 それはキリスト以前に書かれたのではありません。
 ですから、それは、イエス様や彼の使徒たちによって使われたことはなかったのです。
 それは、外典を聖書の数々の書物に混ぜ合わせて含めるため写本セットにすぎず、そうしてローマ・カトリックが彼らの聖書の中にそれらを含めることを正当化するためのものなのです。
 そして、それは、ゆがめられたアレクサンドリア写本全く同じものです。
 私たちは、ゆがめられたアレクサンドリア版聖書には構わずに、保持されてきた私たちの聖書にしっかりとどまろうではないでしょうか。


"What is the "Septuagint"?"(『七十人訳聖書とは何か?』 ディビッド・ダニエルズ www.chick.com)より抜粋


さらに深い理解のために(英語)
What is the "Septuagint"?
(『七十人訳聖書とは何か?』 ディビッド・ダニエルズ
Did Jesus Use the Septuagint?
(『イエス様は七十人訳聖書を使われたか?』 ディビッド・ダニエルズ著

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1 七十人訳聖書…だれかの想像の産物
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3 七十人訳聖書の人為的加工矛盾

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