ビブリア・ヘブライカの構成を、もう一度おさらいしてみましょう。
■ビブリア・ヘブライカの構成
《編集者による欄外注釈》の中に、【諸資料】が見出されます。
下の図は、ビブリア・ヘブライカ(1937年版)の5ページ(創世記3・17〜4・9)の
一部です。
大まかな構成として、まず、上段と下段の二つに分かれています。
上段に、《ヘブル語本文》、下段に、《編集者キッテルによる欄外注釈》があります。
その『注釈』は、
【編集者キッテルの推測】+【諸資料】で構成されています。
次に、【諸資料】の中身を調べてみましょう。
■ビブリア・ヘブライカの『諸資料』
この【諸資料】の中身はビブリア・ヘブライカ(1937年版)の見出しページに記されており、マソラ本文以外の資料は次の通りです。
- オリゲネスによるヘブル語本文
- アキラ訳ギリシャ語旧約聖書
- シマカス訳ギリシャ語旧約聖書
- テオドシウス訳ギリシャ語旧約聖書
- ラテン語ウルガタ本文
- 偽造写本: バチカン写本・シナイ写本
- 七十人訳ギリシャ語本文
- タルグム(アラム語訳などの翻訳文書)等…タルグム『偽ヨナタン』、サマリヤ五書、東洋の資料・西洋の資料…
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そして、その後の改訂版では、以下の要素も加えられました。
- 死海文書(1947年〜)
- モルモン教(2009年〜)
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これらについて、順におおまかに見てみましょう。
ビブリア・ヘブライカを調べると、オリゲネスに関連する文書や、彼に由来する資料が多いことがわかります。
【1】オリゲネスによるヘブル語本文
オリゲネスが作った『ヘクサプラ』の中に、オリゲネスによるヘブル語本文が見出されます。
彼はその『ヘクサプラ』(改ざん旧約聖書)の中に、以下のアキラ訳、シマカス訳、テオドシウス訳の聖書を入れています。これら三人は、異端者たちでした。
- アキラ…占星術、降霊術、ジュピター神と関わり、「聖書をゆがめる邪悪な者」と呼ばれた。
- シマカス…異端エビオン派、イエス・キリストの神性を否定
- テオドシウス…聖書に外典を含める。異端グノーシス派
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★オリゲネスが自作の旧約聖書『ヘクサプラ』に入れたもの
- アキラ訳ギリシャ語旧約聖書
- シマカス訳ギリシャ語旧約聖書
- テオドシウス訳ギリシャ語旧約聖書
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すなわち、
- オリゲネス自身が、『異端者たちを受容した異端者』でした!
- そして、彼の作った『ヘクサプラ』も、異端の要素が満ちた『旧約聖書』なのです。
彼はこういう人物でした。(詳細→オリゲネスとは)
- 広範囲に旅をし、どこでもギリシャ語の新約聖書を見つけると、それを自分の教理にぴったり合うように改ざんした。
- 新プラトン主義の創始者から教えを受けた。
- イエスは一人の被造物にすぎないと信じた。
- 『前世からの生まれ変わり』を信じた。
- イエスは一人の被造物にすぎないと信じた。
- 聖書は、文字通りに解釈するものではないと信じた。
- 創世記一章〜三章は歴史的記述ではないと信じた。
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【2】アキラ訳ギリシャ語旧約聖書
アキラ訳ギリシャ語旧約聖書は、オリゲネスの『ヘクサプラ』の中に見出されます。
アキラはこういう人物でした。(詳細→P-5
)
- アキラ(紀元80年〜135年)は、占星術を捨てることを堅く拒んだことと、降霊術を行ったことで、クリスチャンの社会から除名された。
- 彼は、ジュピター(ローマの最高神)のための異教の神殿を建設する指揮を執り、かつて至聖所のあった場所にローマ皇帝の像を据えた。
- 彼は、メシア(キリスト)に関する多くの聖書の箇所を、それらが主なるイエス・キリストに当てはめるのが不可能であるように意図的に訳した。
- 教父イレナエウスはアキラを、「聖書をゆがめる邪悪な者」として激しく攻撃した。
- 彼は、イエスは、マリアと、「パンセラス」という名の金髪のローマ兵(ドイツ生まれ)との間の私生児であるとした。
【3】シマカス訳ギリシャ語旧約聖書
シマカス訳ギリシャ語旧約聖書も、オリゲネスの『ヘクサプラ』の中に見出されます。
シマカスはこういう人物でした。(詳細→P-5
)
- 異端エビオン派
- イエス・キリストの神性を否定した。
【4】テオドシウス訳ギリシャ語旧約聖書
シマカス訳ギリシャ語旧約聖書も、オリゲネスの『ヘクサプラ』の中に見出されます。
テオドシウスはこういう人物でした。(詳細→P-5
)
- 彼の聖書には 外典『スザンナの物語』が含まれている。
- 異端グノーシス派であった。
【5】ラテン語ウルガタ本文
ヒエロニムスのラテン語ウルガタ聖書も、オリゲネスに由来しており、こういうものでした。
- 旧約聖書の土台を、おもにオリゲネスの「ヘクサプラ」にあるヘブル語本文に置いた。
- オリゲネス自作の旧約聖書[ギリシャ語。外典付]を用いた。
- エビオン派(異端)の人々によるギリシャ語訳を用いた。
- ヒエロニムスのラテン語ウルガタ聖書は、長年にわたりローマ教会から中傷されていた。
- ヒエロニムスと同時代の学者であるヘルビディウスは、
「ヒエロニムスは、改ざんされたギリシャ語写本を使っている」と非難した。
- ヒエロニムスが用いた材料は、ほぼ一語一語が、シナイ写本およびバチカン写本と同じものであった。
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【6】バチカン写本・シナイ写本
バチカン写本とシナイ写本も、オリゲネスの『改ざん聖書』に由来しています。
これらはこういうものでした。(Q-10
)
- 5000を越える99%の多数派写本と合致しない、『非常に異質の2写本』である。
- その中身は、《外典》と《聖書の一部》であり、その《外典》に書かれていることは、『異端の教え』にほかならない。
- バチカン写本・シナイ写本の《聖書の一部》に書かれていることは、偽造された読み方、古代のとんでもない間違い、真理を意図的にゆがめたものなどが大量にある『改ざんされた聖書本文』である。
【7】七十人訳ギリシャ語本文
七十人訳ギリシャ語旧約聖書も、オリゲネスの『ヘクサプラ』の中に見出されます。(注1)
それは、こういうものでした。
- 紀元前の時代には実在しなかったものであり、『でっち上げ』の物語に基づく架空の『聖書』です。
- 今日の『七十人訳聖書』の本文と考えられているのは、シナイ写本、バチカン写本、アレクサンドリア写本です。
- 数々の外典を含んでいる。(P-5,Q-11,S-2
)
- 七十人訳聖書には人為的加工と矛盾がある。(S-3)
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【8】タルグム(アラム語訳などの翻訳文書)等
ビブリア・ヘブライカには、次のようなものが資料として記載されています。
- タルグム『偽ヨナタン』
- 『サマリヤ五書』
「注目すべきことに、『サマリヤ五書』が『ヘブル語本文』とは異なっている箇所で、『七十人訳聖書』と『サマリヤ五書』が一致している箇所が非常に多くあります」(注2)
つまり、『サマリヤ五書』は、『七十人訳聖書』(オリゲネスの『ヘクサプラ』の中に見出されるもの)に非常に近いものなのです。
- 東洋の資料
- 西洋の資料
- その他
さらに、その後、以下のものが加えられました。
【9】死海文書(1947年〜)
それは、こういうものでした。(D-2参照)
- ユダヤの禁欲主義の異端エッセネ派によるものであった。
- 彼らはレビ族に属してはなく、神によってそれらを守るようにとの責務を与えられたユダヤ人たちによって書かれたものではなかった。
- 彼らの教えは数々の異端で満ちたものであった。
【10】モルモン教(2009年〜)との関わり(→S4-9)
■まとめ
こうして【諸資料】の中身をまとめると、こうなります。
- オリゲネス…聖書改ざん者。『異端者たちを受容した異端者』
- アキラ…オリゲネスの『ヘクサプラ』にある。占星術、降霊術、ジュピター神と関わり、「聖書をゆがめる邪悪な者」
- シマカス…オリゲネスの『ヘクサプラ』にある。異端エビオン派、イエス・キリストの神性を否定
- テオドシウス…オリゲネスの『ヘクサプラ』にある。聖書に外典を含める。異端グノーシス派
- ラテン語ウルガタ本文 …オリゲネスの本文に由来。異端エビオン派の訳を用いた。
- バチカン写本・シナイ写本…オリゲネスに由来。外典を含む。『改ざんされた聖書本文』
- 七十人訳ギリシャ語本文…オリゲネスの『ヘクサプラ』にある。外典を含む。人為的加工と矛盾がある。
- サマリヤ五書…『七十人訳聖書』(オリゲネスの『ヘクサプラ』にある)に非常に近いもの
- 東洋の資料・西洋の資料
- 死海文書(1947年〜)…レビ族に属していない異端エッセネ派によるもの
- モルモン教(2009年〜)
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(注1) 「ヘクサプラは、第一欄に『ヘブル語本文』、第二欄に、『ギリシャ文字で表されたヘブル語本文』、第三欄に、『アキラ版旧約聖書』、第四欄に『シマカス版旧約聖書』、第五欄に『七十人訳聖書』、第六欄に『テオドシウス版旧約聖書』がありました」("The Septuagint Version of The Old Testament",Zondervan Edition 1970 序文)
Floyd Nolen Jones,"The Septuagint: A Criticla Analysis",p.19
(注2)"The Septuagint Version of The Old Testament",Zondervan Edition 1970 序文
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